■三国志雑感>日本版『資治通鑑』で、黄巾の乱を読む。(1)
黄巾の乱のタイムテーブルが分からない。 張角が意味不明にがんばったけど病死して、曹操・孫堅・劉備がデビュー戦を飾って、朱儁や皇甫嵩がオロオロしていた、みたいなイメージはある。だけど、実際にどういう戦いがどこであったのかって、よく分からないんだよね。群雄割拠してないから、戦略的な地理のありがたみも薄くて。   分からない理由は、張角が天下を取らなかったからでしょう。 張角目線で歴史書が編纂されてれば、系統だった黄巾勢力の伸張ぶりだったり、黄巾陣営のお歴々の顔立ちだったり、そういうものが見えてたはずだ。でも『後漢書』でも『三国志』でも賊扱いなものだから、記述が散らばってしまった。繋ぎ合わせれば分からないでもないけど、分からん!のが正直な感想かなあ笑   何とか現代日本人として三国志を楽しみたい、と思うとき、助けになるいい本が出ているじゃありませんか。宮城谷昌光氏の『三国志』です。   ■現代日本版『三国演義』と現代日本版『資治通鑑』 陳寿の『三国志』を最高峰に置いたとして、中国人はいろんな知恵でその内容に親しんできました。 時系列がバッラバラの陳寿のを整理して(一応の)客観性をキープしたまま読みやすくしたのが『資治通鑑』です。『資治通鑑』は、説教臭い通史として書かれたから、三国志の解説に主眼があるわけじゃない。でもこのサイトでは三国志の話しかしないから(とぼくが決めてるから)そういう理解の仕方でOKということで笑 陳寿+裴注をたっぷり盛り込みながら、大衆がお気楽に楽しめるように作られたのが『三国演義』。こちらは今さら何かを述べる必要はないでしょう。   現代日本人が陳寿を楽しむときにも、同じようなラインナップが本屋さんに並んでると思います。 正史に準拠して(という触れ込みで)複数の歴史書を縦断して整理し、なおかつ説教臭さを混ぜ込んでいるのが、宮城谷昌光『三国志』です。まるで現代日本版『資治通鑑』です。 対して日本人の好みに好き勝手アレンジして楽しませてくれるのが、吉川英治『三国志』です。宮城谷が『資治通鑑』だなんてぼくが言い出したことだけど、吉川『三国志』が日本版演義であるというのは、別冊宝島とか歴史読本とか、その辺りで読みました。「演義」というのが、分かりやすく教えてあげるね、という意味なんだから、吉川英治が「演義」してくれたことに異論を挟む人はいないっしょ。日本の三国文化の原点だもんね。
  ■宮城谷・張角登場 宮城谷『三国志』で黄巾がらみの話が始まるのは、2巻の317ページ。 「教祖になりうる者は奇蹟に近いことを現出しなければならない。(中略)跪拝させて過ちを首わす、すなわち罪を告白させたのである。むろん張角はその罪をとがめる者ではなく、赦す者である。(中略)はっきりいって天下の民は王朝に失望しつづけてきたのであり、生きることに苦痛をおぼえている者たちは、太平道の信者となれば、自分にとって不都合な倫理から脱却することができる」 これが張角のデビューだ。 張角が「霊力の強さを自覚した」のは、168年ということになってる。   司徒・楊賜は、属官の劉陶に次のように言ったと書いてある。 「張角らは大赦に遭っても悔い改めず、怪しい教えをもってますます滋蔓している。いましも州郡に捕獲命令をくだすと、騒擾がひどくなり、大患になりかねない。ここしばらくは、刺史と太守に、流人を選別して本郡に帰すようにしむけ、その集団を孤立させ弱めようとおもう。その後、その鉅師を誅せば、労せずして鎮めることができる。」 しかし楊賜は「直後に司徒の位を去ったので、上書は霊帝のもとにとどかず、宮中で保留にされた。」んだそうです。これが177年12月。   183年、すなわち黄巾の言う大吉な甲子の前年である。劉陶は連名で皇帝に上疏した。来年あたり、やばそうっすよ、という感じみたいです。 後漢王朝を建物に例えて「濛々たる黄砂の嵐に、屋根は飛び、門は倒される。」と書いてある。 いやあ、プロの表現というのは、すごいっすね。   ■狂言回しの劉陶 劉陶という人物をぼくは知らなかった。「賢人を輩出する」頴川郡出身で高祖劉邦の孫の後裔。 「劉陶の人柄は、おおらかで、小さな節義にはこだわらず、志をおなじにする人しか友としなかった。好みや尚ぶところがちがえば、たとえ富貴の人でも、自分から合わそうとせず、もしも情趣がおなじであれば、卑賤の人でも意を易えなかった。」んだそうで。 劉陶は霊帝に「楊賜さんも言ってたけど、黄巾がやばいんだってば」と言ったが、宦官が「黄巾は無視っても、大勢に影響ないって」と吹き込んでいたので、何も対策が採られなかった。   宦官が結果的に黄巾を「守った」みたいな書き方だよね。宮城谷さん的には、説教臭い王朝擁護論を打つ人以外を、てきとーに同類にしてまうのか。それとも宦官と黄巾の積極的な結びつきを書いてるのか、次の段でも明かされ切ってないような。
  次回はビニルシートを用意して下さい。馬元義の血しぶきがかかります笑
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