読書 > 李卓吾本『三国演義』第27回の訓読

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第27回上_関雲長 千里独行す

程昱が関羽の3罪をいう

曹操の部下の諸将中 只だ有り。蔡陽 関公に服せず、常に讒譛の意有り。故に去赶せんと要す。
操曰く、「主に事へて其の本を忘れざるは、乃ち天下の義士なり。来るも去も明白、乃ち天下の丈夫なり。汝ら皆 之に效ふ可し」
曹操 叱りて蔡陽を退け、赶はしむるを肯ぜず。
程昱曰く、「関某 丞相に辞せず、鈞旨を奉らず。何如」
操曰く、「故主に帰して、以て其の義を全うせしめよ」 程昱曰く、「丞相 能く之を捨つれば、諸将 皆 不平なり
操曰く、「何ぞ不平と為すや」
昱曰く、「関某 三罪有りて、以て衆を怒に致らしむ。且つ関某、昔日 下邳に在り、事の急なりて丞相に降り、拝して偏将軍と為る。三日に一たび小宴、五日に一たび大宴あり、馬に上れば金、馬を下れば銀あり。微功を建つると雖も、即ち寿亭侯の職を拝す。恩栄 極れり。一旦に丞相を棄てて去り、尽忠する能はざるは、其の罪の一なり。
丞相の命を得ず、飄然と便ち行き、門吏を殺さんと欲し、国法に遵はず。其の罪の二なり。故主の微恩を知り、丞相の大徳を忘る。片楮を乱言、鈞威を冐涜す。其の罪の三なり。
今、関某 若し袁紹に帰せば、是れ虎を縦ち人を傷つくるなり。若かず、蔡陽を遣はし赶上せしめ、之を誅して此の後患を絶つを」

操曰く、「然らず。吾 昔日、曽て之を許す。今日 故に之を捨て、若し追ひて之を殺さば、天下の人、皆 言はん、我 信を失ふと。彼 各々其の主の為にす。追ふ勿れ」
遂に喝して退く。後に史官(はぶく)

曹操が道中のため、贈り物をする

程昱曰く、「雲長 辞せずして去る。終に是れ、礼を欠く」
操曰く、「彼 曽て相府に到ること二次なり。吾 之を避く。吾 賜はる所の金帛 皆 留めて我に還す。此れ雲長 乃ち千金にても其の志を易ふる可からず。真に義に仗り、財を踈ずる大丈夫なり。此らの人、吾 深く之を敬ふ」
程昱曰く、「久後、禍と為るとも、丞相 怨む休かれ」
操曰く、「雲長 負義の人に非ざるなり。彼 各々主の為にす。豈に人情を容すや。雲長を想ふに、此れ遠からず。吾 一発に他と結識し、大人の情を做る。
先に張遼を遣はし、他を住めんを請ふ。我 他に送行するに、一盤の金銀を将て路費と為し、一領の紅錦袍をもって秋衣と作す。他に、時時 我を想はしむ」

程昱曰く、「雲長 必ず回らず」
曹操曰く、「吾 数十騎を引き去く。張遼をして単騎にて先去し、〈関羽にちょっと待てと〉請はしむ」

張遼が関羽を呼び止める

却説 雲長 騎る所の赤兎馬 日に千里を行き、本は是れ赶上せざるも、須要 車仗を相傍して行き、敢へて縦馬せず按住し、絲韁 緩緩たりて、背後に人の雲長を叫ぶ有り。
且に慢行し、関公 自ら思想す、「我が字〈あざな〉を呼ぶ者は、必ず是れ我を害せざるの人なり」と。
車仗の従人を叫びて、只管に大路を緊行せしめ、
「吾 自ら〈後ろから呼ぶ人に〉理会す」とす。
頭を回して之を視るに、張遼 拍馬して至る。関公 赤兎馬を勒住し、青龍刀を按定して曰く、
「文遠 我を擒ふるに非ざる莫きや」
遼曰く、「吾が身に片甲も無く、手に軍器無し。何ぞ必ず疑を生ずるや。丞相 兄の遠行するを知り、特来、相ひ送る。並せて傷害の心無し」
関公曰く、「丞相 此に来るは、必ず他意に有り」
遼曰く、「丞相 已に言ふ。『彼 各々主の為にす、追ふ勿れ』と。兄の自去して以て其の義を全するを容す。曽て相ひ送りること為さざれば、自ら軽身にて来るなり。特に小弟をして先来せしめ、兄長に住まるを請ふ」
関公曰く、「便ち是れ丞相の鉄騎 来るなり。吾 単騎にて一死戦を決せんと願ふ」

関公 回ること数十歩、馬を霸陵橋の上に立ち、之を望む。操 数騎を引きて飛奔し、前来す。背後 皆 是れ、許褚・徐晃・于禁・李典の輩なり。
操 関公の横刀し橋上に立馬するを見て、諸将に馬匹を勒住せしめ、左右 擺開す。
関公 衆の手中に皆 軍器無きを見て、此に因り放心す。

曹操が関羽とお別れする

操曰く、「雲長、何が故に、之に行くこと太だ速きや」
関公 馬上に欠身し施礼す。
関某日く、「前に曽て丞相に禀す。今、故主 袁紹の処に在り。由あらず。羽 星夜となく去く。累次 府に造するも、参見するを得ず。故に書を拝して辞を告げ、金を封じ印を解き、丞相に納還す。丞相 昔日の言を忘れざるを望む」
操曰く、「吾 以へらく、信を天下に取らんとす。安にか前言に負くこと有るを肯ずるや。将軍 路に盤費に欠欠たるを恐れ、特に路費を具へ、相ひ送る」
一将 馬上に、黄金一盤を托過す。

関公曰く、「累ねて恩賜を蒙り、尚ほ余資有り、此の黄金を留めて、以て戦士に賞せ。関某 途中に恩賜を労はず」
操曰く、「特に、少酧を以てするとも、大功の万に一なり」
関公曰く、「某 久しく丞相の大恩に感ず。微労 補報するに足らず。異日、萍水に相ひ逢はば、別に当に之に酧すべし」

操 笑ひて答へて曰く、
「雲長 忠義の士なり。吾が福の薄くして。得て相ひ従はざるを恨む。錦袍の一領 略ぼ寸心を表す」
一将をして下馬し、双手もて袍を捧へ、過来す。雲長 操の変有るを恐れ、下馬せず青龍刀の尖挑を用て、錦袍を身上に披く。勒馬し頭を回し、称謝して曰く、
「丞相より蒙り、袍を賜はる」
遂に橋を下り、北を望みて去る。

許褚曰く、「此の人 無礼なること太甚だし。以て擒とす可し」
操曰く、「彼は一人一騎、吾は二十余人なり。安にか得て疑はざるや。吾が言 既に出づ。追ふ可からず」
曹操 自ら衆将を引き、城に回る。路に嗟嘆して曰く、
汝ら衆将 当に雲長に效ふ可し。以て万世の清名と成るなり」
後に詩有りて曰く(はぶく)

廖化が劉備の妻を襲う

関公 車仗を来赶して、約そ三十里を行くも、見えず。雲長 慌てて走り、下馬し、四下 尋ぬ。
忽ち見る、山頭に一人 高叫す、「雲長 且に住まれ」と。関公 目を挙げて視るに、一人の約年の二十有余なるを見る。黄巾の錦衣、持鎗し跨馬す、百余の歩卒を引き、山を下る。
関公 問ひて曰く、「汝 何なる人や」
少年 鎗を棄て下馬し、地に拝伏す。雲長、是れ詐なるを恐る。勒馬し停刀して問ひて曰く、
「壮士、願はくは姓名を通せ」

答へて曰く、「吾 本貫は襄陽の人なり。姓は廖、名は化、字は元儉なり。漢末の世乱に因り、江湖に流落し、劫掠して自ら已に衆五百余人を聚む。
恰纔 同伴たる杜遠 下山して巡哨す。誤りて両院の夫人を将て劫掠し、山に上る。
吾 従者に問へば、云はく是れ、大漢の劉皇叔の夫人なり。吾 即ち地下に拝し、其の来意を問ふ。為に将軍の盛徳を説く。
吾 送りて下山せんと欲するも、杜遠 言を出せば不遜なり。某 之を殺す。今 〈杜遠〉頭を将軍に献じて、罪を請ふ」

関公曰く、「二夫人 何にか在る」
化曰く、「傷害を恐れ、山中に留む」
関公 急ぎ取りて下山せしむ。時を移さず、百余人の簇 車仗を擁して前来す。関公 下馬し停刀し、車前に叉手し問侯して曰く、
「嫂嫂 驚を受くるは、関羽の罪なり」
二夫人曰く、「若し廖将軍の保全する非ざれば、已に杜遠の辱むる所となる」
関公 左右に問ひて曰く、「廖化 怎に夫人を生救する」
左右曰く、「杜遠 劫して上山し、廖化に就要し、各々一人を分けて妻と為さんとす。廖化 起根を問ひ、好生に由り拝敬す。杜遠 従はず、已に廖化に殺さる」
関公 言を聴き、遂に廖化に拝謝す。

廖化 部下の人を以て関公を送らんと欲す。関公 尋いで此の人を思ふに、終に是れ黄巾賊の類なり。若し用ひて伴人と為さば、必ず笑耻せらる。関公 辞謝して曰く、
「厚恩に感謝す。争奈 曽て曹公に説誓し、千里独行を願ふ。日後、相ひ逢はば、必ず当に重謝すべし」
廖化 拝して金帛を送る。雲長 受けず。廖化 拝別し、自ら人を引き伴ひて山峪中に投ず。

胡華から息子への手紙を預かる

雲長 曹操の贈る袍の事を将て、二嫂に告ぐ。車仗に随ひて行くこと漸漸たり。天晩、一孤の庄に投じ、安歇す。
庄主 出でて迎ふ。鬚髪 皆 白し。問ひて曰く、
「来たる将軍 姓は甚ぞ、名は誰ぞ」
関公 向前し施礼して告げて曰く、
「吾 乃ち劉玄徳の弟、関某なり」
老人曰く、「莫非顔良・文醜を斬る関公に非ざる莫きや否や」
公曰く、「便ち是なり」

老人 大喜し、便ち庄に入れと請ふ。関公曰く、
「車上に二夫人有り」
老人 妻女を喚し、出でて請ふ。甘・糜二夫人 下車して草堂に上る。関公 叉手して二夫人の側に立つ。老人 請ふ、「公 坐せ」と。関公曰く、
「尊嫂 上に在り。安にか敢へて坐に就かん」
老人曰く、「公 異姓なり。何ぞ此の如く敬ふや」
関公曰く、「某 曽て劉玄徳・張翼徳と共に、兄弟を結義し、生死を同じくするを誓ふ。二嫂 兵甲の中に相ひ従ふ。未だ嘗て敢へて欠礼せず」
老人曰く、「将軍 天下の義士なり
遂に妻女をして草堂に上らしめ、二夫人を相待す。

老人 小齋款に関公を待す。関公 姓名を問ふ。
老人曰く、「吾 姓は胡、名は華なり。桓帝朝の時、議郎と為り、致仕して郷に帰る。今 小児の胡班有り、滎陽太守の王植の下に在り、従事と為る。将軍 必ず此の処に由り経過せば、就ち書を小児に付し、相会せよ」
関公 胡華の書を求め、遂に以て曹公に辞するの事を告ぐ。胡華 感歎して已まず。

当夜 二夫人 正房に宿し、関公 燭を秉りて坐す。
次日、天暁、胡華 餽送し飲饌す。関公 二嫂に上車を請ひ、胡華に辞別す。披甲し提刀し、上馬して洛陽に投ず。

孔秀が関羽を妨げる

来前し、一関に至る。名は東嶺関といふ。把関の将、姓は孔、名は秀、是れ曹操の部下将なり。五百の軍兵を引き、嶺上に在り、隘を把す。此に是れ三州の隘口なり。
関公 車仗を押し、上嶺す。嶺上の軍士 孔秀に報知す。秀 遂に乃ち剣提げ関に出でて、関公に喝す。「下馬せよ」
関公 只だ得て下馬し孔秀に施礼す。
秀曰く、「将軍 何こに往く」
公曰く、「已に丞相に辞し、河北に特往し、兄の劉玄徳を尋ぬ」
秀曰く、「河北の袁紹 正に是れ、曹丞相に対頭す。将軍 此れ去かば、必ず来文有り」
公曰く、「行くこと慌速なるに因り、曽て討得せず」 孔秀曰く、「若し来文無くば、将軍 且に関下に待て。我 人を差はし、丞 相に禀過す。方に放行す可し」
関公曰く、「汝の去禀を待たば、我が行程を誤る」
秀曰く、「一日 禀せざれば、住まること一日を要す。一年 禀せざれば、住まること一年を要す」

オレが連絡を遅らせたら、その分だけ、お前の行程も遅れる。オレを不機嫌にしても良いのかな?と。関羽がイラッとして、1人目の将を斬る場面だから、それなりに憎らしさが必要である。1人を斬ってしまえば、あとは何人を斬っても、罪は同じ。この孔秀との、イラッとする会話が、物語の信憑性において大事。

雲長 怒りて曰く、
「汝 何ぞ相ひ侮るや」
秀曰く、「法度 拘る所、此の如くならざるを得ざる。当今の乱世、龍は争ひ虎は闘ふの時なり。若し文憑無くんば、英雄を枉説す」
雲長曰く、「汝 我の関を過ぐるを容さざるや」
秀曰く、「汝 過ぎんと要さば、老小を留下して質に当てよ」
雲長 奮怒し刀を挙げ、孔秀を殺さんと欲す。孔秀 閉関して去る。未だ若何なるやを知らず。且聴下回分解。141110

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第27回下_関雲長 五関に将を斬る

関羽が孔秀を斬る

孔秀 慌忙し退き、関に入り、上門を緊く閉ざす。鼓を鳴らし軍を聚め、俱に各々披掛し手に軍器を執り、左右に分布す。
孔秀 衣甲を全付し、綽鎗し上馬して、関門を放開す。大喝して曰く、
「汝 敢へて過ぐるは麽ぞや」
雲長 約して〈兄嫁の〉車仗を退け、馬を縦し刀を提げ、竟に打話せず、孔秀に直取す。孔秀 挺鎗して来迎す。両馬 相ひ交はること只だ一合、鋼刀の起こる処、孔秀の屍 馬下に横がる。血濺 長空たり。

衆軍 便ち走ぐ。
関公曰く、「軍士 走ぐる休れ。吾 孔秀を殺すは、已むを得ざればなり。汝らに干すること無し」
衆軍 馬前に拝す。
公曰く、「汝の衆軍の口を借りん。許都に往き、告訴せよ。丞相 尚ほ吾に親自ら餞行す。孔秀 故〈ことさら〉に相ひ攔し、吾を殺害せんと欲す。吾 故〈ゆゑ〉に之を殺す」

洛陽太守の韓福を斬る

先に二夫人に請ひ、車仗 関を出で、洛陽を望みて進発す。
原来、先に軍士の洛陽に去き、〈洛陽〉太守の韓福に報知する有り。韓福 急ぎ衆将を聚めて商議す。
手下の牙将たる孟坦曰く、
「既に丞相の文憑無し。即ち私行に係る。若し阻まざれば、当に必ず罪責有るべし
韓福曰く、「関公の勇猛 以て迎敵し難し。顔良・文醜 尚ほ且つ誅せらる。只だ計を設けて之を擒ふ可し」
孟坦曰く、「先に鹿角を将て関口を攔定し、他の到る時を待て。小将 兵を引き、他と交鋒す。太守 高阜の処より暗箭を用て之を射よ。軍士を左右に埋伏せよ。若し関将 馬を墜下せば、即ち之を擒へん。解きて許都に赴かば、必ず重賞を得るべし」

商議 了はるや、人 関公の車仗 巳に到ると報ず。韓福 一千の人馬を引き、関口を擺列す。這の関 是れ平地の上に剏立す。晨昏に〈弓兵で〉守禦し、往来に〈伏兵で〉奸細す。
公 旗号の竪立すること密なるを見て、布刀し鎗見す。韓福 弓を彎き箭を挿し、立馬し揮鞭して〈関羽に〉問ふ。
「来る者 是れ何なる人ぞ」
関公 馬上に欠身し施礼して、言ひて曰く、
「吾 寿亭侯の関某なり。聊さか過路を借る」
韓福曰く、「汝 曹丞相の来文有るや否や」
関公曰く、「事は冗たれば、曽て討得せず」
韓福曰く、「吾 丞相の鈞命を奉り、故都を鎮守す。専一に盤詰し、往来に奸細す。若し憑文無くば、即ち迯𥨥に係れ」
関公 怒りて曰く、「東嶺の孔秀、吾 之を斬る。汝ら当に吾に死を尋ねんと欲するや」
韓福曰く、「誰人か我のために之を擒へよ」

孟坦 出馬し双刀を輪して関公に来取す。関公 車仗を約退し、拍馬し孟坦に来迎す。戦ふこと三合、馬を撥回し、便ち走ぐ。関公 赶来す。孟坦 只だ指望し関公を引誘す。想はず、他〈関羽〉の馬 名は赤兎、日に千里を行き、走ること星飛の若く早きを。
已に馬尾 相ひ交はり、赶上す。脳後より只だ一刀、砍りて両段と為す。関公 馬勒して回来す。

韓福 閃きて門首に在り、力を尽し一箭を放し、正に関公の左臂に射中す。公 口もて箭を抜き、出血 流れて住まらず。

関羽に矢が当たるのは、樊城だけじゃない。

〈関羽は〉馬を飛し、韓福に逕奔し、衆軍を衝散す。韓福 急ぎ走げ、迭せず。関公 手に刀を起し、頭を落帯し肩に連ね、馬下に斬る。衆軍を殺散し、車仗を保護す。関公 帛束を割きて箭傷に住む。

同郷の普浄長老が、暗殺を仄めかす

路に人の暗かに算ずるを恐れ、敢へて久しく住らず、連夜、沂水関に投ず。把関の将は、并州の人、氏姓は卞、名は喜なり。善く流星鎚を使ふ。
原〈もと〉は是れ黄巾賊の余党なり。後に曹操に投じ、撥して関を守る。早くに人の報ずる有り。

却説 関公 韓福を殺す。卞喜 一計を尋思す。就ち関前に座寺有り、鎮国寺と名づく。是れ漢明帝の御前の香火院なり。董卓の時 廃れり。曹操 韓福をして重修せしむ。卞喜 就ち寺中に刀斧手の二百余人を埋伏す。約そ撃盞し号を為して雲長を害せんと要す」
卞喜 関を離れ、関公を迎接す。公 卞喜の慇懃たるを見て、下馬し相見す。
喜曰く、「将軍の名 天下に震ふ。誰ぞ敬仰せざる。今、皇叔に帰して以て大義を全せんとす」

関羽の行動原理は分かりやすいから、心服していなくても、このように賞賛することが可能である。

雲長 訴ふ、孔秀・韓福を斬るの事を。
卞喜曰く、「将軍 殺すは是なり。其れ丞相を見るに、禀に代へて衷曲す」

関公 甚だ喜び、同に上馬して沂水関を過ぎ、鎮国寺の前に到り、下馬す。衆僧 鍾を鳴らし出迎す。本寺 僧の三十余の人有り。数内の長老、正に是れ雲長と同郷、法名は「普浄長老」なり。
長老 已に其の意を知り、向前し関公に問訊す。関公 之に答ふ。浄長老曰く、
「将軍 蒲東を離れて幾年なるや」
関公曰く、「二十年に近し」
浄曰く、「還りて貧僧を認得するや否や」
公曰く、「郷を離れて多年、相ひ識る能はず」
僧曰く、「貧僧の家 将軍の家と只だ一條の河を隔つ」
卞喜 浄長老の郷里の故事を説くを見て、只だ走泄するを恐れ、之に叱りて曰く、
「吾 将軍に宴に赴くを請はんと欲す。汝 僧人 何ぞ多言するや」
雲長曰く、「然らず。郷人 郷人に見へば、安ぞ得て旧情を叙せざるや

長老 方丈の内に茶を待するを請ふ。
雲長曰く、「二嫂 車上に在り。先に茶を献ず可し」

いちいち、面倒くさい設定だな。

長老 茶を取り先に夫人に奉らしむ。関公に方丈に入るを請ふ。長老 以て手に戒刀を携挈し、目を以て顧盻す。関公 其の意を会し、左右を喚びて刀を将て近側せしむ。

沂水関の卞喜が、暗殺を試みる

卞喜 関公に請ひ、法堂に筵席せしむ。関公 壁衣の後に人の密布すること多きを見る。皆 剣を手に制す。
関公曰く、「卞君 関某に請ふは、好意なるや、歹意なるや」
卞喜曰く、「安にか敢へて敬せざるや」

関公 壁衣の中を窺ふに、一道の刀斧手を望見す。関公 卞喜を大喝して曰く、
「吾 汝を以て好人と為す。安にか敢へて此の如きか」
卞喜 事の泄るるを知り、左右に大叫す。下手の数内に、肝大なる者有り。就ち向前せんと欲するに、皆 関公に砍らる。
卞喜 下堂し、廊を遶りて走ぐ。
関公 剣を棄てて大刀を執り、卞喜を赶ふ。暗かに飛鎚を取り、関公に擲打す。関公 刀背を用て槌を隔開す。
赶ひて将に入らんとす。一刀もて劈して両段と為し、廊下に死す。関公 急ぎ二嫂を看るに、早く軍人の遠遠と囲住する有り。関公の来るを見て、四下 奔走す。

関公 皆 赶散し、浄長老に謝して曰く、
「若し吾が師非ずんば、巳に此の賊に害せらる」
関公 浄長老に辞して行く。
浄曰く、「貧僧 此の処 容れ難し〈もう居られない〉。衣鉢を收拾し、亦 他の処へ往かん。雲遊する後、会々期有れば、将軍 保重せよ」
普浄 去れり。

滎陽太守の王植に狙われる

雲長 車仗を護送して滎陽に往かんと進発す。滎陽太守の王植 却りて韓福と是れ両つながら親しむの家なり。
比及 雲長 到るや、韓福の家 先に人をして通報せしむ。 「雲長 滎陽に到る」と。
王植 人をして関口を守住せしめ、関吏に〈通行者の〉姓名を問はしめ、〈関羽が来たと〉王植に来報す。王植 喜笑し、雲長を相ひ迎へ、兄〈劉備〉を尋ぬるの事を説く。

植曰く、「将軍 路に駆馳し、夫人 車上に労困す。且に請ふ、城の館駅の中に入り、暫く歇め。一宵、日 登るとも、途 未だ遅からず」
雲長 王植の意の甚だ慇懃なるを見て、遂に二嫂に請ひ、城駅の庭中に入る。皆 鋪陳して当つ。
王植 公に請ひ、宴に赴かしむ。
雲長曰く、「尊嫂 上に在り。敢へて飲酒せず」
植 堅く公に請ふも、出でて飲饌せず。皆 送りて館駅に至る。関公 路に辛苦なるを見て、二嫂に正房に歇定するを請ふ。従者 各自 安歇す。赤兎馬并びに駕の車馬の数匹を飽喂す。関公 亦 甲を解き、少しく歇す。

『左伝』を読んで、刺客を圧倒

却説 王植 密かに従事の胡班を喚び、聴令して曰く、
「関某 丞相に背きて逃ぐ。又 路に太守を殺し、并せて守把・関隘の将校 死す。罪 軽からず。此の人の武勇 敵し難し。汝 今晩、一千の軍を點し、館駅を囲住せよ。一人一箇の火把もて、先に焼きて外門を断て。四囲し放火せば、是れ誰なるやを問はず、尽く皆 焼死す。今夜の二更、事を挙げよ。吾 亦 自ら一千の軍を引き、接応す。

胡班 言語を領して便ち去る。軍の各人を點じて、火把の一束を要す。俱に乾柴・引燥の物を要す。先に館駅の門首に搬す。
胡班 尋思す、
「我 関雲長の模様 如何なるやを識らず。当に往きて之を観ん」

胡班 駅中に至り、駅吏に問ひて曰く、
「関将軍 何処に在る」
答へて曰く、「正に所上観書者是なり」
胡班 往きて関公を観るに、左手もて綽髯し、几に凭れて燈下に書を看る。班 見て大驚して曰く、
「真の天人なり」
語言 頗る高し。公 問ふ、
「何なる人か」
胡班 入りて拝して曰く、
「滎陽太守の下の従事、胡班なり」

雲長曰く、「許都の城外の胡華の子に非ざり莫しや否や」
班曰く、「華 乃ち班の父なり」
公 従者を喚びて行李中より書を取り、班に付す。班 看畢はり歎じて曰く、
「険些、誤りて忠良を害せんとす」
遂に入り密告して曰く、
王植 心に不仁を懐き、将軍を害せんと欲す。四面に令して一千の火把あり。約そ二更 放火す。胡班 今 去きて門を開く。将軍 急ぎ收拾して城を出でよ」
雲長 大驚し慌忙す。二嫂に上車を請ふ。雲長 披掛し、提刀し上馬して尽く館駅を出る。
果して軍士の各々火把を執るを見る。聴候し急ぎ城邉に来到す。只だ見る、城門の已に砍開せらるを。公 人伴に催し、急速に城を出づ。
胡班 還りて放火す。

関公 行くこと数里に到らず、背後より人馬 赶来す。先に当るの王植 大叫す、「関某 走ぐる休れ」
関公 馬を勒して住まり、大罵す。
「匹夫 我と你と讐無し。如何にして人をして火を放ちて我を焼かしむ」
王植 拍馬し挺鎗す。火把 照耀たり。逕来し雲長に奔る。関公の一刀を被け、腰を砍られ両段と為る。人馬 皆 散ず。
関公 赶はず、自ら車仗に随ひ、行程を催促す。公 胡班に感じて巳まず。

東郡太守の劉延が船を貸さず

行きて滑州の界に至る。首に人有りて劉延に報ず。
延 慌忙し数十騎を引き廓を出でて迎ふ。関公 馬上に欠身して言ひて曰はく、
「太守 別来より恙が無きや」
延曰く、「今 何こに往かんと欲す」
公曰く、「丞相を辞して家兄を尋ぬ」
延曰く、「玄徳 袁紹の処に在り。紹 乃ち是れ丞相の讐人なり。如何に〈曹操が〉公の去くを容すや」
関公曰く、「昔日、曽て言ひ定む」

劉延曰く、「即ち今、黄河が渡口の関隘、夏侯惇の部下たる秦琪、拠守す。只だ恐る、〈秦琪が〉将軍の渡を過るを容さざるを」
関公 劉延に告げて曰く、「太守 船隻を応付せよ。若何」
延曰くく、「船隻 有ると雖も、敢へて応付せず」
公曰く、「我 前には顔良・文醜を誅し、亦 曽て足下の与〈ため〉に危を解く。今日 一隻の渡船を求むるに、与へざるは何ぞや」
延曰く、「只だ夏侯惇を恐る。将軍 之を知らば、必ず吾 罪せらる」

夏侯惇の部下を斬って渡河する

関公 劉延の無用の人なるを知り、遂に自ら車仗を催し前進し、秦琪の寨邉に到る。
秦琪 軍を引き出でて問ふ、「来る者 何なる人や」
関公曰く、「漢寿亭侯の関某 是れ也」
琪曰く、「今 何こに往かんと欲す」
関公曰く、「河北に投じて兄長の劉玄徳を尋ねんと欲す。敬来、渡船を借せ」
琪曰く、「丞相の明文 何こに在る」
公曰く、「吾 他の節制を受けず。甚ぞ公文有るや」
琪曰く、「吾 夏侯惇将軍を奉ず。令を将て関隘を守把す。你 便ち挿翅なり。飛びて過ぎず」

関公 大怒して曰く、「你 知るや、吾 路に攔ぐる者を斬截することを」
琪曰く、「你 只だ無名の下将を殺得するなり。敢へて我を殺すや」
関公 怒りて曰く、「汝 顔良・文醜と比して若何」

「義絶」というより、ただの脅迫者である。

秦琪 大怒して、縦馬し提刀して、関公に直取す。二馬 相交すること只だ一合、関公の青龍刀 起ち、秦琪の頭 落つ。
関公曰く、「吾に当たる者 已に死す。余者 必ず驚走せざれば、速やかに船隻を備へて我に送りて渡河せしめよ」
軍士 急ぎ舟を挙げ、岸に傍す。

関公 二嫂に上船を請ひ、黄河を渡りて北も往き、進発す。便ち是れ、袁紹の地面なり。
関公 歴る所なる関隘の五処に、将六員を斬る。故に曰く、「関公 五関に将を斬る」と。詩有りて(はぶく)

孫乾が合流し、関羽を汝南に導く

関公 馬上に自ら歎じて曰く、
「吾 非欲沿途殺人 奈の事 巳むを得ざるなり。曹公 之を知らば、必ず痛恨を懐き、我を恩義無きの人と看承するなり
嗟嘆して已まず、正に行くの間、忽ち見る、一騎 北自り来て、「雲長 少しく住まれ」と大叫す。
関公 馬を勒して之を視るに、来る者 乃ち孫乾なり。
関公曰く、「汝南にて相別する自り、一向 消息は若何」
乾曰く、「汝南の劉辟・龔都 某を遣はして河北に往かしめ、袁紹と結好し、玄徳に破曹の計を同謀せんと請ふ。
想はず、河北の諸将・謀士 各々相ひ妬忌す。田豊 尚ほ獄中に囚はれ、沮授 黜退して用ひず、審配・郭図 各々自ら権を奪ふ。
袁紹 疑ひ多く、主持 定めず。
雲長の回らんと欲するを知る。必然、〈袁紹軍に入れば〉害に陥る。某 劉皇叔と商議し、先に脱身の計を求む。今 皇叔、已に汝南に往き、劉と会合して三日。雲長の知らざるを怕れ、袁紹の処より到る。彀中に落つるを恐れ、故に某を遣はし路に迎接せしむ。幸いにも此に見ふを得たり。雲長、公は就ち汝南に往き、皇叔と相会す可し」

雲長 孫乾をして夫人に拝せしむ。夫人 〈孫乾に〉其の〈劉備の〉動静を問ふ。
孫乾 備へて説く、「袁紹 二次 皇叔を斬らんと欲するも、今 幸いに身を脱して汝南に往く。公 宜しく速やかに行くべし」
衆 皆 面を掩ひて垂泪す。雲長 此の言に依り、河北に投ぜず、汝南に逕取す。正に行くの間、背後に塵埃 起こる処、一彪の人馬 赶来す。先に当る夏侯惇、大叫す、「関公 走ぐる休れ」と。畢竟 如何。141110

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